絵本(ゑほん)宝七種(たからのなゝくさ)叙(ぢよ)
ひとつとや。一夜(ひとよ)あくれば賑(にぎや)やかに。かざりたてたる松かざりと。童(わらはべ)の毬歌(まりうた)
うたふを聞(きゝ)て。心うきたつ折(おり)しも。蔦(つた)屋のあるじ。年始(ねんし)の御慶
申入るゝといひつゝ。予(よ)が庵中(あんちう)に入り。屠蘇酒(とそざけ)の機嫌(きげん)にか。例(れい)の笑(わらひ)
上戸(じやうご)をあらはして。四方山(よもやま)の話(はなし)のなかば。挟箱(はさみばこ)の内(うち)より一小冊(さつ)を出して
書名(しよめい)及(およ)び序文(ぢよぶん)を乞(こ)ふ。其(その)草紙(さうし)を閲(みる)に。七福神(しちふくじん)の遊(あそ)び戯るゝ
姿(すがた)を画(ゑがき)たり。思ふに今日は是(これ)元旦(ぐはんたん)にして。然(しか)も甲子(きのへね)の日なり。はか
らず福神の姿を見る事吉兆(きつてう)なり。おん身の家業(かぎやう)大吉利(だいきつり)
市(し)をまねくべし。予(よ)も又筆(ふで)を試(こゝろみ)て。ともにいはゝんといひつゝ。書(しよ)
名(めい)を宝(たから)の七種(なゝくさ)とよび。其事を記(しる)して以(もつ)て序(ぢよ)とす
享和四年甲子元旦 山東庵京伝述

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