洞庭(とうてい)西湖(さいこ)は唐土(あちらの所)の古跡(せき)にして其所(そのところ)を
見(み)る者(もの)すくなしされは須摩(すま)や明石(あかし)の
真丸(まんまる)月(つき)にはしかさるべし鳥(とり)かなく
あつまの春信(はるのふ)筆(ふて)に絵本(ゑほん)江戸土産(ゑとみやけ)あり
其(その)後篇(こうへん)なり花(はな)の御江戸(おゑと)の四里四方
をまたにかけたる歌川(うたかわ)古法師(こほふし)か武蔵(むさし)
坊(ほう)の長刀(なきなた)よりかる/\と筆(ふて)のあゆみ書(かき)うつ
せる画本(へほん)江戸錦(ゑとにしき)題す四季(しき)折(おり)々の賑(にきわ)ひ
花咲(はなさく)春(はる)の山道(やまみち)には吸筒(すひつゝ)ほしく見(み)へ柳(やなき)の
下(した)の涼舟(すゝみふね)に聲色(こはいろ)長唄(なかうた)有(ある)かことく秋(あき)の最(も)
中(なか)の月(つき)には彼里(かのさと)のせんせいを写(うつし)雪(ゆき)の足駄(あしだ)
の跡(あと)見れは河豚汁(ふぐしる)くひたる面影(おもかげ)あり
かはかりこまやかわ生写(いきうつし)するは浮世絵(うきよゑ)の一
流(りう)なるへし予其(その)末(すへ)に其(その)名高(なたか)き所題
して好(すく)もの戯談(はなし)を書之此江戸■(こ)の■つ
めとなるものなり
享和四年 甲子初春 櫻川慈悲成(花押)

画像リンク先
国立国会図書館貴重書画像データベース 絵本江戸錦 で検索