華か見たくは芳野(よしの)へ■■れとは。
はやくよりの諺(ことはざ)にして。龍田(たつた)川には
紅葉を流すとは。古(ふる)き世の小歌之。されと
芳野山の桜(さくら)は。雲(くも)と見られて花(はな)の一分(いちぶん)
たらず。立田(たつた)川の紅葉は錦(にしき)と見られて。
山姫(やまひめ)の骨折(ほねをり)を費(ついや)す。爰(ここ)に山高
からねば雲(くも)にもまかはず。道遠からねば
錦(にしき)ともあやまたぬ。花紅葉の名所有。
あしが痛(いた)くて芳野へ行れぬ人も。
破籠(いりご)提重(さげぢう)の酒(さけ)に手を取かはして。
君(きみ)と我(われ)とが名を流すと。うかれあるける
此大江戸の名たゝる所を。朝日のゑみ
豊国が筆に写して。春秋の詠(ながめ)を
ひとつとぢふみに纐纈染(くゝりそめ)と題し。
江戸鹿子(えどかのこ)の糸口をとくものは。
然(しか)こと鹿子の鹿津部真顔 「真顔」「狂歌堂」
とらのはつ春