曲中(きよくちう)年中行事(ねんぢうぎやうじ)序(じよ)
此書(このふみ)を年(ねん)中行事(ぎやうじ)と命(よべ)ることは。貞治(ていぢ)の
歌合(うたあはせ)によるにもあらす。亦(また)建武(けんむ)当時(たうじ)の
まめだちたる。御作(ごさく)をしもしたふならす
こはよき人のよしといふなる新吉原(にひよしはら)の四ツ
の時(とき)。おりふしの花紅葉のあはれにおかしき
さまを集(あつめ)て。堤(どて)のなげふし歌麿かはな
やぎたる筆を。ふるへるものなり。さるは
初名代の臨時客(りんじきやく)中の町の花(はな)の宴(えん)
対(つい)のしきせの更衣(ころもがへ)。れんじにまつる
乞巧奠(きかうでん)。八朔の風俗(ふうぞく)はさらなり。居続(ゐつゞけ)
の雲の見参(けんざん)。丸市か夜神楽(よかぐら)まで。喜の
字やか台のせて洩(もら)すことなし。文(ふみ)の詞は
十返舎か筆にして。つらい勤(つとめ)の公事(くじ)
根原(こんげん)。すかぬ鼾(いびき)の江次第(ごうしたい)さへ。月次(つきなみ)の
屏風(びやうぶ)ひきいでつゝ。廊下(らうか)障子(しやうじ)のあなぐり
もとめて。扨ぞ突出(つきだ)しの新板(しんはん)とはなせり
ける。まことに人間の別世界(べつせかい)。この春(はる)
秋(あき)のゆきかひを見ん人は。養老(やうらう)不死の
気(き)の薬(くすり)となりて。あとへとしとる心地や
せられましといふ
于時享保四甲子蒼陽日
 千首楼識「堅丸」

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