勇見袋(ゆみふくろ)序文
水(みづ)の辺(ほと)りに口(くち)なければ舌(した)に釣(つり)
針(ばり)の憂(うれ)ひなしとは治(ぢ)にして乱(らん)
なしといへる訛字(あてじ)まじりの謎々(なぞ/\)
とこそ其(その)なぞ/\の薙刀(なぎなた)も治(おさま)る
世(よ)には菜切庖丁(なきりほうちやう)となりてじゞ武(む)
蔵坊(さしぼう)が小鍋立(こなべだて)の七ッ(なゝつ)道具(だうぐ)に遣(つか)はれ
金平牛房(きんひらごばう)の髭(ひげ)をそりてこはい
顔(かほ)する者(もの)もなければ初狂言(はつきやうげん)の朝日(あさひ)
奈(な)を見(み)ていつも正月(しやうぐわつ)と知(し)るなど
如何(いか)にもゆたかなる御世(みよ)には有(あり)けり
是(これ)しかしながら武(ぶ)に秀(ひいで)たる
吾国(わがくに)の功(いさを)しなれば桃太郎(もゝたらう)の昔噺(むかしばなし)
にも日本一(につほんいち)のきみのことき事(こと)を悦(よろこ)び負(まけ)るは
嫌(きら)ひのをの童(わらは)には勝軍(かちいくさ)の武者画(むしやゑ)に
ますものなしと筆(ふで)に彩(いろど)る錦(にしき)の
勇見袋(ゆみふくろ)と題(だい)して春待懸(はるまちかけ)しいさ
ましさを貴賎(きせん)上下(じやうげ)おしなめて
みな甘泉堂(かんせんだう)に求(もと)めぬものこそ
なかりけれ
 子のはつ春 狂歌堂真顔