画(ゑ)のことは素(しろ)きを后(のち)にししろきに後(のち)に
すとかや高論(いへる)むつかしき漢画(からゑ)も物換(ものかはり)星(ほし)
移(うつり)て名家(めいか)の風流(ふうりう)おなしからずさりや
やまと絵(ゑ)に名(な)たゝる三都(さんと)の画工(ぐはかう)の妙(たへ)
なる筆(ふで)も年逝(としゆき)月去(つきさり)て頭上(かみ)の玉簪(かざり)
衣裳(いしやう)の錦銷(もやう)風俗(ふうぞく)のうつり行(ゆく)こと
幼稚(おさなご)の長(ひと)となるに等(ひと)し今(いま)や此時(このとき)に
ときめける廓中(くはくちう)の娼妓(きみ)の嬋娟(たをやかなる)雅歩(どうちう)
窈窕(みやびやかなる)際坐(ざしき)の形姿(ありさま)を又(また)其道(そのみち)の今様(いまやう)
に時(とき)めける北尾(きたを)勝川(かつかは)二氏(にし)の彩毫(さいがう)
を労(らう)して月雪花(つきゆきはな)の姿(すがた)の三(みつ)の巻(まき)
となれるを即(すなはち)美人合姿鑑(びじんあはせすがたかゝみ)と題(だい)して
其名(そのな)も盛(さか)り久(ひさ)しかれと華(はな)さくら木(き)
にちりばめおのれも亦(また)家(いへ)の業(わざ)にとき
めかむことをねがふ将(はた)彼(かの)娼妓(きみ)の折(をり)に
ふれことにつけて口ずさみ置(をけ)る四時(しき)の
ことの葉(は)を乞(こひ)もとめて其(その)姿絵(すがたゑ)に神(たましい)を
添(そゆ)るのこゝちはおの/\をして昭君(せうくん)が
後悔(くい)なく是(これ)にむかふときは艶然(ゑんぜん)として
唇(くちびる)を動(うご)かさしむるにあらざらんやとしかゆふ
安永五歳丙申正月
 書肆 耕書堂主人誌