絵本和歌浦(ゑほんわかのうら)序(じよ)
画(ゑ)は無声(むせい)の詩(し)詩(し)は有声(ゆうせい)の画(ぐは)と
■■()にて其(その)かたちを書(かき)あらはすにおのづから
物いへる心地(こゝち)し侍(はべ)るは絵(ゑ)なり爰(こゝ)に浪花(なには)の
高木氏(たかぎうぢ)往古(そのかみ)の歌仙(かせん)のよめる和歌(わか)の心を
もて艶(ゑん)なる女のすがたを倭絵(やまとゑ)にたぐひ
しておかしく転(てん)じてゑがきたり是(これ)を
桜木(さくらぎ)に写(うつ)し■世に広(ひろ)くなさば見る人
つれ/\をなぐさむ種(たね)ともならん故外題(けだい)を
わかの浦(うら)とかきしは歌(うた)人の絵なればかく
いへるにやあらん実(まこと)に芦辺(あしべ)をさして田鶴(たづ)
鳴渡(なきわたる)るの古歌(こか)もあれば千里(せんり)一はねにのし羽(ば)
して世(よ)に行渡らんとことぶきたはむるゝ
言葉(ことは)をたゞちに序(じよ)とするものなるにて
 浪花散人書
 画工高木氏貞武