絵本八十宇治川
文(ぶん)を右(みぎ)にし武(ぶ)を左(ひだり)にするは治(おさまれ)る世(よ)の
つねなから安(やすき)に居(ゐ)て危(あやうき)をわすれざるは
またいにしへの道(みち)ならずやされば漢(かん)の四七の
将(しやう)は兼康(かねやす)ならぬ壁(かべ)に画(ゑ)がゝれ後三年(ごさんねん)の
合戦(かつせん)は土佐画(とさゑ)の巻物(まきもの)に著(いちじる)しこゝに
北尾(きたを)の何(なに)がしあらふるゑびす姿(すがた)をもて
敷島(しきしま)の大和絵(やまとゑ)にうつしたるを衢(ちまた)に
撃壌(つちうつ)もろ人らたはれ歌(うた)のたゝえことを
そへたれは文(ふん)はます/\右傳(みぎてん)の一章(しやう)一句(く)の
かたきをやわらげ武(ぶ)はいよ/\左(ひだり)きゝの
たのみある中(なか)の酒宴(しゆえん)かな将(はた)その画(ゑ)の工(たくみ)なる
巨勢(こせ)のかなをかも爪(つめ)をくはえ其(その)こと葉の
をかしき方朔艾子(ほうさくかいし)も頤(おとがひ)を解(とく)べしよりて
児桜(ちござくら)に壽(いのちながふ)して青柳(あをやぎ)のめをよろこばしめんと
緑橋(みどりばし)のほとりにすめる耕書堂(こうしよどう)のすゝめ
いなみがたくその紙(かみ)の田(た)に芸(くさぎる)てふ萬象(まんさう)
亭(てい)にもゆづらまほしきを硯(すゞり)の水(みづ)のかな
ひきなくやかてものゝふの八十氏川(やそうぢかは)と
かいながしやることゝはなりぬ
 四方山人