飛鳥(ひちやう)展足(あしをのへ)闘牛(とうぎう)竪尾(をゝたつる)雪中(せつちう)芭蕉(ばせを)はいづれ
画家(ぐはか)の虚妄(きよもう)ながら金岡(かなをか)悪槐(あくわい)の馬(むま)の稲(いね)を
はみ貞信公(ていしんこう)の郭公(ほとゝぎす)声(こへ)を発(はつ)せしたぐひは
能画(のうぐは)の真(しん)より出(いで)て川成(かはなり)が人をはかり鳥羽(とば)
僧正(そうしやう)の訴詔(うつたへ)をなせしは画家の滑稽(こつけい)なる
べし今(いま)や東都(とうど)絵事(くわいし)さかんなる狩野家(かのけ)に入(いり)
されば雪舟(せつしう)土佐(とさ)に入(いり)されば英(はなぶさ)に入(いり)ておの/\
其能(そののう)をあらそふそれが中(なか)に北尾(きたを)の一氏(いつし)は其(その)
よるところ門戸(もんこ)をたてず滑稽(こつけい)のうちおの
づから其真(そのしん)を写(うつ)して管城(くはんしやう)のゆくところに
したがへともしかも丹青家(たんせいか)の規矩(きく)をわす
れず其名(そのな)時(とき)にいちじるし書林(しよりん)から丸(まる)乞(こふ)て
江都(ゑど)の名たゝる所(ところ)/\をかき写(うつ)さしめ時(とき)めく
諸家(しよけ)の狂歌(きやうか)をこひうけ桜木(さくらぎ)に壽し号(なづけ)て
吾妻(あづま)からげとよぶ費張房(ひちやうぼう)が術(しゆつ)ならでこれを
ひらけば江戸(ゑと)四里四方(よりよほう)をひと目(め)に見わたし
これをまけは三巻(みまき)の冊子(さうし)となるもとより
画(ぐは)は心(こゝろ)の歌(うた)歌(うた)は心(こゝろ)の画(ぐは)なれば臥遊(ぐはゆう)の幽賞(ゆうしやう)
何(なに)ものかこれにしかめや
 唐衣橘洲誌