花(はな)の色(いろ)をうつせるものはそのにほひをゑがく事あたはず
月(つき)のしろきを後(のち)にする者(もの)は色明(あき)らかなる影(かげ)をうる事(こと)かたし
とはからさえづりのから言(こと)にして鳥(とり)がなくあづま錦絵(にしきゑ)柳桜(やなぎさくら)
をこきまぜて都(みやこ)の春(はる)の玩(もてあそ)び物とし千枝(ちえだ)つねのりも及(をよ)びなき
時勢(いまやふ)の粧(よそを)ひをつくせりわけて姿(すがた)もよし原や二(に)のまちならぬ
いつゝの町に名たゝる君がかたちをうつしそれがおの/\自(みづか)らの水茎(みつくき)
の■をさへそへたれて物いふ花の匂(にほ)ひをふくみ晦日(みそか)の月の明かり
なるが如く見るに目もあやにもときめき魂(たましゐ)は四手駕(よつてかご)とゝにとぶ
心地し身(み)は三蒲団(みつふとん)の上にあるから疑(うたご)ふかくうつくしきうつし絵には
僧正(さうじやう)遍昭(へんぜう)もいたづらに心を動(うご)かしつべくつたなからぬはしり書には
吉田兼好(よしだのけんこう)もつれ/\をなぐさめざらめや因(より)てこれがはしつかたに其
ことはりをかきつけよと五葉(ごはふ)の松の陰(かげ)たのむ蔦(つた)のから丸か
求(もとむ)るをいな舟のいなといなまんもおこがましければ猪牙舟(ちよきふね)のちよきり
ちよとつくりいでゝたちならびたる中の町さかりの花のかたはらと
みやま木とも/\ずつと深山(みやま)の山の手(て)から
  こは/\筆をふるふにこそ
天明四のとし辰初春 四方山人書

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