駿河
耕書堂に奇石あり其かたち鶏に似たり
とて金鶏石となつくやつかれ過し頃より
深く此石にこゝろありしかとあるしの
寵すくなからねはこふへくもあらすいとむなし
く過にきことしすかの根のなかき春の日
やほやちまたの名所をさくりたはれたる歌
百首を撰て己か書斎の一物となしむさと
人にはみせさりしにいかゝしてやこの事
耕書堂にきこへ侍りけれは主のとく来て
いへる此集いたつらに帋虎の居膳となさん
よりもとみに梓にのほせて四方にはしら
しめんよ君かつ我に得させよ是に報に
品ありとてひとつの瓊凾を出してうや/\
しくもひらきたるはなんそかの金鶏てふ
奇石なりそもこの石や予にありてはさらに
葛山人の烏石にもおなしかるへしあまり
にもふしきにもかゆき所に手のとゝくこゝち
せらるそのうれしさいふへくもあら
ねはかの乙女の天の羽衣を得しこゝちして
駿河舞とはかいつけ侍る
 寛政二戌とし初春 奇々羅金鶏しるす