むかし 大泊瀬の御時堅貴の画部
をおかれけること国史にしるされにしより
相覧常則公望か名紫の物語に見へ侍れと
その残れる跡とてはいまの世にみるへくも
あらす文亀永正よりこのかたいみしき画
とものわつかにのこり侍けるを年比こゝかしこ
にてうつしをけるをある人とりいてゝかく
いたつらにせんよりは梓にしてこゝろさしを
おなしくする人のためにせよといさめあるによて
思へはみつからの拙き筆なからもいにしへの名
あるかた/\のたゝしき跡を露たかへすうつし
おきて侍れは五百年の後まてもちりうせさらんは
この道のひかりならんと思ふものから其詞に
したかひてゑらひ出るもの三巻なつけて粗
画便覧といはんかも
宝暦辛巳の冬春卜老人筆を鶴仙居にとりぬ
 
 
大泊瀬…雄略天皇(418〜479)。第21代天皇
堅貴…鞍作堅貴。
相覧…巨勢相覧(こせのおうみ)。巨勢金岡の長子。『源氏物語』に「絵(竹取物語)は巨勢の相覧、手は紀貫之書けり。」とあり。
常則…飛鳥部常則。
公望…巨勢公望(こせのきんもち)。巨勢金岡の第三子。『源氏物語』に「公望が仕れる大局殿の儀式の絵…」とあり。
紫の物語…『源氏物語