序文

凡例 世に和漢の画本多しといへとも皆諸の名画の 写しのみにして日用の間に合ぬなり今此画本は 絵の入用の諸職人のため或は画こゝろある人を早く画 道に入しめんか為に北尾螵斎先生の工風せられ有れしを 予ひそかに此一巻を見てこひ求め則諸職画鏡 題し梓に…

野宮の女郎花合に源順判者たりしか女房の うたおほく勝せけれはおとこ方より 霜枯の翁草とは見たれとも をみなへしにそなをなひきける とよみて嘲りしとかや近きころ柳陌の媚の 似せ絵をかゝせ且句を集めし事むそしの 我に似気なき業也さるはさくらをかさす …

倭草画序 伏犠方牙倉精易を造て政をなすと いへとも■なし仍て其形を画是を画の 始とせり我朝用明天皇元年百済国 より画工白加を奉る其後和漢大に 行れて今猶名家あけて算へからす 爰中に又一家あり狩野家漢家の 画法に拘はらす今様の風流を画て たゝ人の眼を…

絵本江戸みやげ序 武蔵野(むさしの)の月も。家(いへ)より家に入る 風情(ふぜい)。繁花(はんくわ)日々(ひゞ)に盛(さかん)なり。四季折々(しきをり/\)の 壮観(さうくわん)。中(なか)にも春(はる)は上野(うへの)飛鳥(あすか)の花盛(はなさかり)。 三囲(みめぐ…

絵本(ゑほん)満都鑑(まつかゞみ)序 尭天(げうてん)蕣日(しゆんじつ)の和(くわ)にほこる民(たみ) たのしみいつの時(とき)をかまたむ其(その) 中(なか)に月花(げつくは)は騒人(そうじん)のたのしみ 琴唱(きんしやう)は婦女(ふぢよ)の楽(たのし)みなり児童(じど…

序 番椒(とうからし)噛(かむ)で焼酎(せうちう)飲人(のむひと)有(あり)。砂糖(さたう)を 嘗(なめ)て白柿(つるしかき)食(く)ふも有(あり)。いづれよしあし をさためん。扨此画本(ゑほん)。耳(みゝ)に烟草(たはこ)を すはせ。尻(しり)で鐘(かね)を撞(つく)の。…

序 元朝(ぐわんてう)の雑煮(ぞうに)に里芋(さといも)を入るは其子(そのこ)の多(をゝき)を祝(いわ)ひ亥(いの) 子(こ)に餅(もち)を祝(いわ)ふもかの一陽(いちやう)の気(き)をたすけて猪(いのしゝ)の子(こ)の多(おゝき) に似(にん)事を願(ねがふ)宜(むべなる)か…

絵本古鳥図賀比序 寝惚(ねぼけ)嘗(かつ)て味噌(みそ)と屎(くそ)との論(ろん)を あらわして論(ろん)終(つい)に尽(つき)ず山東(さんとう)画(ゑ) 兄弟(きやうだい)を出(いだ)して唯(たゞ)其似(そのに)たるにとる 而巳(のみ)彼(かの)大椿(だいちん)と槿花(きんく…

絵賛常の山序 李白か一計詩百篇と聞へぬるは見ぬ もろこしの人なり吾師玉雲斎の翁は 小盃の一杯に数首のひなふり歌を詠して其名 四方に高しされは聞伝ふ人々よすかを求て 絵賛を乞ひあるはかの酒の席の興に乗して 掛もの扇面なとに筆を揮ひ人の耳を悦はし 其…

序 治平哉(おさまれるかな)天地(あまつち)豊饒哉(ゆたかなるかな)国民(くにたみ) いつれか武徳(ぶとく)によらすといふ ことなし凡(およそ)千歳(せんさい)の今(いま)に聞(きこ)ふる 名将(めいしやう)の知謀(ちぼう)英雄(ゑいゆう)の血戦(けつせん)千辛(せんし…

児童(じどう)教訓(けうくん) 伊呂波歌の序 往古(いにしへ)子(こ)ををしへるに父(ちゝ)は算数(さんすう)を教(をし)へ 母(はゝ)はもろ/\の和語(わご)女(をんな)もじを教(をし)ゆ故(かるがゆへ)に 父(ちゝ)をかずといひ母(はゝ)を伊呂(いろ)といふ伊呂(いろ)…

舒詞 土佐画(とさゑ)の百鬼(き)夜行(やぎやう)には。頼光(よりみつ)朝臣(あそん)が物怪(ものゝけ)を おもひ。北窓翁の百人女蟖(ぢよらう)には。源氏君(げんじのきみ)が品定(しなさだめ)を こそしのばめ。よしや画(ゑ)のうへを其(その)まゝに。怪談(くわいだ…

華か見たくは芳野(よしの)へ■■れとは。 はやくよりの諺(ことはざ)にして。龍田(たつた)川には 紅葉を流すとは。古(ふる)き世の小歌之。されと 芳野山の桜(さくら)は。雲(くも)と見られて花(はな)の一分(いちぶん) たらず。立田(たつた)川の紅葉は錦(にしき)…

序 漢(かん)にいはゆる竜眠(りやうみん)の人物牧渓(もつけい)の山水(さんすい)なん どおの/\得たる処ひとつふたつに過(すぎ)ず 爰(こゝ)に浮世絵(うきよゑ)のうきたる心地(こゝち)すれど江都(ゑと) むらさきの染(そめ)屋に軒(のき)を並(なら)ぶ吾嬬(あつま…

叙 相生(あいをい)の松(まつ)の種(たね)幾代/\(いくよ/\)に尽(つき)せす二葉(ふたば)/\の 生栄(をいさか)ふる寿(ことふき)に等(ひと)しき男女(おとこをんな)の中(なか)は 彼(かの)清女(せいぢよ)の書(かけ)る遠(とふ)くてちかき■(なかだち)の 一言(ひ…

序 洞庭(とうてい)西湖(さいこ)は唐土(あちらの所)の古跡(せき)にして其所(そのところ)を 見(み)る者(もの)すくなしされは須摩(すま)や明石(あかし)の 真丸(まんまる)月(つき)にはしかさるべし鳥(とり)かなく あつまの春信(はるのふ)筆(ふて)に絵本(ゑほん)…

絵本(ゑほん)宝七種(たからのなゝくさ)叙(ぢよ) ひとつとや。一夜(ひとよ)あくれば賑(にぎや)やかに。かざりたてたる松かざりと。童(わらはべ)の毬歌(まりうた) うたふを聞(きゝ)て。心うきたつ折(おり)しも。蔦(つた)屋のあるじ。年始(ねんし)の御慶 申入る…

駿河舞 耕書堂に奇石あり其かたち鶏に似たり とて金鶏石となつくやつかれ過し頃より 深く此石にこゝろありしかとあるしの 寵すくなからねはこふへくもあらすいとむなし く過にきことしすかの根のなかき春の日 やほやちまたの名所をさくりたはれたる歌 百首を…

序 花(はな)の色(いろ)をうつせるものはそのにほひをゑがく事あたはず 月(つき)のしろきを後(のち)にする者(もの)は色明(あき)らかなる影(かげ)をうる事(こと)かたし とはからさえづりのから言(こと)にして鳥(とり)がなくあづま錦絵(にしきゑ)柳桜(やなぎさ…

序 目出度御代に隅田川の きよきなかれ尽せぬ言の葉は やんことなきおん方の都 とりを詠したまひけるを 集て鈴木氏の筆に 今様を写して金山堂 のあるしに与ければ終に 梓に鐫て幼稚の翫弄 となすも実に目出たき 御代に隅田川つきせぬ なかれのいく年を祝ひて…

絵本続江戸土産序 武蔵野(むさしの)ゝ月とは往昔(むかし)の名にして 今や人家(じんか)建(たて)つゞきてめでたき土地(とち) の賑(にぎは)ひわきて上野(うへの)浅草(あさくさ)の春(はる)の景(け) 色(しき)より吉原(よしはら)の雪(ゆき)のあしたまでを 画(ゑ)に…

序(しよ) 君(きみ)が代(よ)に住(すめ)る民(たみ)とて ゆたかなる初春(はつはる)の睦(むつ)び 往(ゆき)こふ人の家土産(いゑづと)に なにがな幼稚(おさあひ)の翫(もてあそび)となして 益(ゑき)あらん事(こと)を思(おも)ひ昔(いにしへ)の 賢(かしこ)き人の撰(ゑ…

狂月望序 月出て野草に出月入て野草に入とはみぬもろこしの 人までもこの日のもとの風土記にしるし軒より 出て軒に入とは江戸わらんべのもてはやせるじくゑん 往来のせうそこにもかけりむさし野のひろき おほん膝もとにすみた川のもろはくをたゝえふじの 根…

「見青山」 心に生をうつし筆に骨法を畫は画法にして。 今門人歌麿か著す虫中の生を写すは是 心画なり。歌子幼昔物事に細成か。たゝ 戯れに秋津虫を繋きはた/\蟀蟋を 掌にのせ遊ひて。余念なし。即其生を むさほらんことを恐れてあまたゝひいましめしに。 …

田鼠化してぬかとりとなり井蛙分して杓子となる ころは弥生のよいていけ皆口綿の袖か浦になのりそやつ まむ貝やひろはんと潮の干潟に舟引あけて沖の並居 面々はたそ誰に倉部行燈なめり大盃をなかにすへてさ かなもとめにこゆるきの磯にとりえし蟹のまてかた…

夫たはれうたの狂といへはもろこしまても行 いたるめる千里の馬の伯楽の街に春のはしめの はるこまならてよきこふる読人をつとへ 大牧小牧の巻を作る四方の狂歌の連銭あし毛 扇巴か乗たりける春風といふ名歌をはしめ名に たち花の鹿毛のこま児島か崎の先をあ…

絵本譬喩節 聖賢(せいけん)人ををしゆるにちかくたとへ をとりたまふとかやされば大液(たいゑき)の芙蓉(ふよう) 未央(びわう)の柳といへば美人の姿(すがた)もおもはれ 舂臼(たちうす)に薦(こも)といはゝ醜女(しこめ)の尻(しり)かと思はる 妖怪(ようくはい)の…

絵本(ゑほん)詞(ことは)の花(はな)序 浮世絵(うきよゑ)は菱川(ひしかは)を祖(そ)とし夷歌(えびすうた)は 暁月(きゃうけつ)を師(し)とす此(この)ふたつのものはわざ をなじからねと姿(すかた)のおかしくたはれ たるかたによれるはそのたかひめなし とやいふへ…

吾妻遊 武蔵野の広きくま/\はあまねく 人のいひふれしならひにして今さら言へく もあらねともとより呉竹の四里四方に して又そのもれたるもあめれやつかれ さきに千々の里々を掌にとちめし仙家 の術ある事を夢見しより俄に此集に こゝろさしありしかと折か…

序 柳(やなき)は緑(みどり)花は紅(くれなゐ)の色々にて春の 慰(なくさみ)は数多(あまた)ある中(なか)にも高閣(かうかく)錦帳(きんちやう) のうちの幼君(ようくん)雅公(がこう)の遊(あそび)には広説(ひろくとき) 艶詞(やさしきことば)の諺(ことわざ)に如(しか…